2019年06月03日
廃棄物ひとくちコラム
第38回 <山梨県内における汚泥の不法投棄について>
5月14日静岡新聞朝刊にトップ記事として、「富士川支流の雨畑川に産業廃棄物の汚泥を不法投棄」という報道がされました。少々の驚きを持ってその記事を読みましたので、私見を交えながら情報提供させていただきます。
従来から、静岡新聞社が取材に力を入れていたのは、駿河湾の特産であるサクラエビの不漁原因究明の中で、富士川からの濁りの流入がその要因ではないかという点でした。湾奥のサクラエビ産卵場所のSS(懸濁物質量)が高くなると太陽光線が海の中まで届きにくくなり、結果サクラエビ幼生の餌となるプランクトンが繁殖できず、サクラエビ個体の減少に繋がっているのではないかという推定に基づくもので、専従取材班を編成して追跡取材をしていました。
濁り(SS)の流入源としては、富士川本流からのものと、日本軽金属蒲原工場の発電用放水路からのものが指摘されていました。後者は、日軽金が山梨県内の富士川支流である早川(雨畑川はさらにその支流)から取水し、専用導水管を用いて蒲原まで導水し、落差を使って水力発電を行った後に、駿河湾に直接放流しています。従って、その濁りは、日軽金の発電事業により生じるものではなく、取水先である早川の汚れが疑われてきました。先月には、静岡、山梨両県知事が、共同で河川調査を開始することになった旨の記事が掲載されたばかりでした。
そのような中で、早川の汚れについて取材していた静岡新聞の大スクープといって良い今回の記事でした。驚きの1点目はこの点で、採石業者がプラントから生じた汚泥をダンプアップして河川に不法投棄しているまさにその瞬間をとらえたもので、これほどまでにジャストのタイミングで違反事実を記録した写真は、経験の長い私でもあまり見たことがありません。静岡新聞社のヘリコプターから撮影していますので、ある程度事前の取材から投棄事実を把握し、撮影準備をしていたものと推測します。山梨県警も捜査に着手したとのことですので、静岡新聞社にも積極的に資料(記事掲載以外の写真やビデオもあるはずです。)提供に協力していただき、早急な事件解明を期待したいと思います。
2つ目の驚きは、今どき良くぞここまで露骨な不法投棄ができたものだという点です。おそらく業者の言い分としては、「もともとダムの底に堆積していた自然物であり、産業廃棄物という認識はなかった。」ということでしょうが、どう見ても違法行為であることは明白です。また、これまで何年間か継続して行っていたという報道もありますので、その間、現場周辺の住民の目に留まることはなかったのでしょうか。月1回、100トン程度の汚泥を数年間にわたって反復継続的に投棄していたとのことですので、それによる環境影響は計り知れないものがあります。この点については、行政の監視指導体制も検証の必要があると思います。
今後、捜査の進展に注目していきますが、これを不法投棄罪で検挙できなかったら警察能力が問われるくらい、典型的な不法投棄事案です。注目されるのは、判決でどの程度の罰則(罰金額+懲役年数)が下されるかという点と、原状回復のための措置命令を山梨県がいかに早くどういう内容で発出するかという点です。5月16日付けの新聞では、山梨県は、採石業者に対し、これまでの処理の状況について文書回答を求める(法第18条に基づく報告徴収)予定としていますが、もっとスピード感を持った対応が必要ではないかと考えます。もうすぐに梅雨の季節が到来してしまいますよ。
<記事の概要>
雨畑ダム上流に堆積した土砂を、ベルトコンベヤーを使って、ダム下流にある採石業者のプラントに搬出。同社はそれを販売用に直径数センチ程度の大きさに砕く作業を行っており、その後の洗石工程で微粒子を多く含むヘドロ(汚泥)が発生する。同社は、数年前からこの汚泥を処理(通常は、濃縮のための脱水等)せず、貯留槽から直接ダンプカーに積載し、事業場下流の河川敷に投棄を繰り返していた。投棄物は、大雨等の出水時には、ダムの放流により下流に流れる形になっていた。