2021年11月01日
お知らせ
熱海市内で発生した大規模土石流災害について(続報)
本年7月3日に発生した大規模土石流については、20名以上の方が死亡または行方不明になり、130棟以上の家屋が巻き込またうえに未だ復旧の目途が立たないなど、県内では稀に見る大災害となっています。被災された皆様には、心からお見舞いを申し上げます。本件については、発災直後の本コラム8月号に寄稿させていただきましたが、その後調査が進み幾つかの問題点が指摘されていますので、今回は続報としてお伝えしたいと思います。
問題点1:規制体制の不備
盛土に対する規制については法律がなく、自治体が「条例」を定めて規制するしかない点が挙げられています。しかも、静岡県条例は、神奈川県に比べ規制が緩いために、県境を越えて当該地に運び込まれたと言われています。これだけ大規模な災害発生の原因となったのに、現在の静岡県条例の最高罰は、措置命令に違反した場合の罰金20万円です。
また、条例により課せられる罰則自体も、地方自治法14条第3項の規定により、2年以下の懲役・禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料もしくは没収(以上刑罰)又は5万円以下の過料に制限されています。つまり、県議会でも議論されているように、条例で定め得る最高罰に改正したとしても、懲役2年、罰金100万円が限度となります。廃棄物処理法の最高罰が、懲役5年、罰金1千万円、法人に対しては3億円であるのに比べると、条例での規制の限界が見えてきます。今日も総選挙の選挙カーが私の事務所の前を行きかっていますが、盛土に対する法規制を選挙公約に掲げている候補者がいないことは、残念でなりません。 盛土工事は、他人の生命財産に係る重大行為であることを踏まえ、早急な法整備が求められています。
問題点2:行政権限の行使
残土搬入に関して、行為者が行政の指導を履行せず、是正が必要な状況を改善しなかったことが報道されています。水抜設備の設置や擁壁の建設、さらに残土中に混入していた産業廃棄物の撤去について再三行政指導を行ったが、実施されないまま放置されたことが大きな問題点として挙げられています。一時は、県条例に基づく「措置命令」の発出も検討されたようでしたが、問題の行為者所有の土地に被災地域に給水していた上水道の貯留タンクが設置されていたことから、措置命令発出の仕返しにその撤去を求められることをおそれて発出を躊躇したのではないかと推測されています。
また、前月号コラムで伊豆市における不法投棄案件に対する措置命令発出の情報を提供させていただきましたが、本件については行政指導を繰り返すだけで、適切な行政権限の行使が行われていませんでした。2010年には、行為者は神奈川県から撤去指導を受けた廃棄物混じりの残土を当該地に搬入、それに対し静岡県も木くず等の混入を確認し撤去指導した記録が残されていました。この際、静岡県は廃棄物処理法19条の規定に基づき搬入物の排出先である神奈川県西部にある関連業者の立入検査も実施しています。実は、他の自治体にある事業場に出向いて直接調査するというのは異例(ある意味掟破り)で、一般的には管轄自治体(この場合には神奈川県)に依頼して事実確認を行いますので、静岡県は結構本気で調査・取り締まりを行おうとしていたことが伺えます。
この業者は、解体現場で土砂と廃棄物を分別する作業も省いていたことから違法性を認識していたうえに、「他人が欲しいと言っている残土だから廃棄物ではない」などと主張して残土として搬入を繰り返していました。
しかし、結果として行政命令が発出されることはなく、残土に混入して運び込まれた廃棄物は撤去されずに現場に残存することとなりました。木くずは水分を持っていますし、腐敗して分解しますので、土にこれが混じっている場合は、土木的な強度が低下することは明らかです。また、がれき類・廃プラ等の混入も土砂のみの場合よりも強度が低下することが一般的で土石流の直接的な発生原因にはならなかったかも知れませんが、少なからず影響を与えたことは推測できます。
このように見てみると、与えられた行政権限を適切に行使しなかった一連の経過は、非難されても仕方のないものであると考えます。
問題点3:行為者の資質
行為者は、熱海市内のほか神奈川県内でも複数の山林で、土地改変行為を繰り返しており、そのたびに指導を受けていたと報道されています。また、行政に対し理不尽に抗議を繰返したほか高圧的な態度で行政担当者に接していたともされています。
これが、行政担当者の及び腰に繋がったとは考えたくありませんが、一昔前の産廃業者に良く見られた光景です。私が産廃行政の担当を始めた平成の初め頃は、こうした業者がいましたが、欠格要件の強化や現役警察官の出向在籍により激減しました。
いずれにしても、今回の災害発生に関しては原因者として断罪されるべきです。
本件については、県・熱海市の調査が途中ですし、被災者を原告とした裁判が提起されています。それらの中で、責任の所在も明らかにされていくものと考えますので今後の推移を見守りたいと思います。