2020年07月06日
廃棄物ひとくちコラム
建設工事に係る排出事業者について
産業廃棄物の処理責任は、排出事業者にあるという廃棄物処理法の大原則から、誰が排出事業者に当たるかは、正しい理解をしないと法違反に繋がることがあります。通常、不要物の占有者が排出事業者とされていますので、占有権を持っている当該物の持ち主が排出事業者となります。製造業や農業・商業等の業種では明確で、廃棄前(不要物化前)の時点で占有=使用していた者が、それに該当します。
ところが、建設工事については、建築物・工作物の占有者(使用者)が排出事業者になるのではなく、当該工事の元請者が排出事業者になるという特例があります。廃棄物処理法では珍しく、運用通知ではなく法第23条の3という1条を設けて、「建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理に関する例外」として規定しているのが特徴です。この条文は、約10年前の平成23年法律改正で新たに追加されたもので、今回のコラムでは、ここに至るまでの紆余曲折について書いてみたいと思います。
50年前の1970年(昭和45年)に廃棄物処理法が制定された当初から、建設工事から発生する産業廃棄物の排出事業者は、元請者であるというルールは存在していました。根拠は、当時の管轄官庁である厚生省が発出した運用通知で、建設工事において下請業者が産業廃棄物を処理する場合は、許可が必要であるとして扱っていました。
そんな中で降って湧いたように起こったのが「フジコー事件」でした。解体業者であるフジコーは産業廃棄物処理業許可を有して業務を行っていましたが、「廃棄物処理法の解釈を誤った違法な通知を行ったために、必要でない許可申請を行わざるを得なくなって、損害を受けたので、国家賠償請求をする。」と訴えを起こしたのです。1審の東京地裁では、「多数の下請業者が存在する建設工事では、下請業者を排出事業者だと考えれば、帰属不明な産業廃棄物が発生し、産業廃棄物の適正な処理ができないおそれがあるとして、排出事業者は元請建設業者である 。」と原告敗訴の判決を出しました。その後、2審の東京高裁では、「憲法関係の法原理である営業の自由とか罪刑法定主義(産業廃棄物処理業の許可なしに他人の産業廃棄物を処理すれば罰せられる)を根拠に、東京地裁の解釈を違法とし、「少なくとも産業廃棄物を排出する単位として観念される一まとまりの仕事(何がこの意味の一まとまりの仕事であるかは、社会通念に従って判断される。)の全部を請け負い、それを自ら施行し、したがってその仕事から生ずる廃棄物を自ら排出した事業者は、たとえそれが下請の形態をとっていたとしても、通常廃棄物を排出した主体(排出事業者)に当たるということができる。」と逆転勝訴の判決(平成5年10月28日)を出しました。被告である国は、控訴しませんでしたので、これで判決が確定しました。
これを受けて、旧厚生省は、平成6年に衛産第82号通知を発出し、これまでの解釈を一部変更しました。
・原則は、元請会社が排出事業者となる。
・当該建設工事のうち他の部分が施工される期間とは明確に段階が画される期間に施工される工事のみを一括して請け負わせる場合であって、元請会社が自ら総合的に企画、調整及び指導を行っていると認められるときは、元請と下請の両方が排出事業者となる。
(判決で言っている「一まとまりの仕事」を具体化)
2点目の解釈が適用される代表的な事例は、次のようなケースでした。
① 個人住宅の建て替えをハウスメーカーと施主が契約を締結
② 解体工事をハウスメーカーから下請解体業者が一括して請け負う。解体工事期間において、他の工事は一切行われない。電気・ガス・水道等の停止・切替工事は、解体着手前に完了させる。
その後、本年4月号コラムに書いたとおり産業廃棄物の不法投棄が増加を続け平成10年から13年頃にピークを迎えます。しかも、その中身を見れば、70%以上が建設系廃棄物でした。運用の変更と不法投棄は直結しないかも知れませんが、建設工事における排出事業者を「廃棄物処理法」に明記し、誤解が生じないようにして、排出事業者責任を全うさせるべきという機運が高まっていきました。それが、冒頭に書いた平成23年の法律改正に繋がったのでした。このような経緯から、例外規定でありながら、法律本文に明記されることになったのです。
なお、廃棄物処理法の悪いところですが、法第21条の3第2項以降には、下請負人も事業者になれる例外規定が設けられており、時々これの適用についてお尋ねをいただくことがあります。条文の柱書きを例外としながら、その規定中にまた例外を設ける全く読みにくい法律ですが、結論としては、第2項以降の例外が適用されるのはごく限られたケースであり、排出事業者=元請者と理解することが、法違反の防止に繋がるということです。例外の例外規定については、機会をみて書いてみたいと思います。