2018年05月07日
TUBOJUNコラム
第40回 「森林環境税の怪」
皆さま、こんにちは!先日、地元の生産森林組合の仕事で山の下草狩りに参加しました。いわゆる集落有林とか入会林野をルーツとする生産森林組合なのでしょう、多分。古くから住む人は組合員になっていて、年2回の下草狩りに出役する義務があります。休憩時間には「子供の頃はリヤカーを引っ張って薪を取りに来た」なんて80歳を超えた古老の昔話でノスタルジーに浸るのも悪くはありません。
しかし、杉や檜が植林された山の下草刈りといっても、素人が半分以上お遊びで山に来ているだけで、全く本気ではありません。実際の山は、草に押しつぶされた植林の苗、間伐も枝打ちもされず貧相な木の姿、そして至るところにある立ち枯れした木々ばかり。一言で言うと放置。それに対して目的を持った作業をする訳でもなく、何となく鎌を動かして、ただ義務として時間を潰すだけ。それって年に2日だけでも結構辛いものがあります。
ところで、平成30年度の税制改正で「森林環境税」という新税が導入されたのはご存知でしょうか。温室効果ガス排出削減などを目的として、手入れがされずに荒れている森林の整備を進めるための目的税です。6200万人の個人が対象となり、住民税に千円を上乗せする形で徴収。620億円に上る税収は国の特定財源として間伐などの森林整備、人材の育成、木材利用の推進などに充てられる予定です。しかし、税金を取るとなると、環境という錦の御旗に隠れたいくつかの問題が・・。
一つは、類似する既存の地方税との二重課税の問題。現在37府県と1市(横浜市)が地方自治体の税として既に森林環境税(名称は自治体により異なる)を導入しています。ここ静岡県も「森林(もり)づくり県民税」として法人、個人の両方に課しているのです。森林整備という税の目的も、住民税に上乗せする形も新税とほぼ同じ。違いは自治体の財布から国の財布に入り、そこから市町村に配ることになるということ。
二つ目は、新税は本当に有効なのかという疑問。通常、環境税といえば二酸化炭素や汚染物など環境に負担を掛ける発生源(となる法人や個人)に課税することにより、その発生を抑制する手段となります。しかし、森林環境税は住民税の上乗せという形で、森林や環境に対する負荷に関係なく広く税金を徴収する。従って、課税そのものが森林の健全化を進めるという本来の目的のために働きにくいという側面があります。
三つ目は、目的税という性質そのもの。目的税による特別財源が出来ると、目的が達成されても税は存続し、結果的に無駄遣いが多くなるというのが、悲しいかな一般的です。平成18年から導入された静岡県の「森林づくり県民税」も5年ごとに税の継続を判断するというが、既に平成32年までの延長が決まっています。県は、森林所有者による整備が困難な荒廃森林が「着実に森の力が回復しています」というが果たして・・。荒廃した森林はそもそも所有者や境界が不明であることが多く、そういう難しい問題に対しては税では対処できませんし。
と、今回は納税義務のある国民のほぼ全てが対象となる増税でありながら殆ど話題にもなっていない「森林環境税」について考えてみました。日本は国土の3分の2が森林で、そのまた4割がスギやヒノキなどの人工林です。戦後、積極的な植林活動が展開され、その後、多くが整備されずに放置された状態になっている。そういう意味では多くの国民が悩まされているスギやヒノキによる花粉症も環境問題と言えるのかも。それはさて置き、荒廃森林の問題の根源は結局、零細規模の林業が成り立たない事であり、その森林を売ろうにも金銭的価値が小さ過ぎて売れないという事。そして、それらを解決する仕組み作りが遅れたままである事。財源は必要ですが、財源により解決される問題ではないのにね。
TUBOJUNの日々の仕事の様子はコチラ http://www.recycle-clean.co.jp/stuff/blog04