2019年09月02日
廃棄物ひとくちコラム
第41回 山梨県内における汚泥の不法投棄について(第4報)
4箇月連続でこの話題を取り上げます。このコラムでは、過去にダイコーの廃棄食品の横流し事件や陶土製造工場からの汚泥流出事件について書きましたが、取り上げたのはせいぜい3回まででした。本件は4回連続で題材にするほど大変に深刻な事件と言えます。
7月中旬のある日、弊社の事務所に静岡新聞社の記者から「メールマガジンのコラムを書いている方にお話を伺いたい。」との電話連絡が入りました。普段私は、事務所におりませんので話をすることはできませんでしたが、会社から用件と連絡先をお聞きしましたので、私の方から静岡新聞社に電話してみました。
すると記者からは「5月以降、砂利洗浄汚泥の不法投棄の件で、ニッケイ工業を取材してきたが、今回同社の別の事業場から、生コン汚泥(残コン)が投棄されていることが判明し、今日山梨県が立入検査に入った。投棄先の河川敷には、コンクリートの固化した白色の物が相当量確認できる。写真画像があるので見てコメントをいただきたい。」との依頼がありました。電話取材とそのコメントから、翌日の朝刊には次のような記事が掲載されました。
『静岡県内の自治体で長年、産業廃棄物行政に携わってきたコンサルタントは「液状で排出され固まってしまうとすれば、相当高濃度だったと推定できる。」とした上で、「片付けたからおしまいではなく、過去にさかのぼり、どのような行為が重ねられ影響はどうであったか総合的に確認し、告発や行政処分の必要性を判断すべき」と話す。コンクリートは強いアルカリ性を示すため「河川水のpH(ペーハー)に影響すれば、下流の生き物は死んでしまう可能性がある」と懸念した。』
さらに同社の追跡取材では、投棄された生コン汚泥は、ニッケイ工業が製造した生コンではなく、砂利を販売した先の業者から排出された戻りコン(ミキサー車で運搬した生コンが、工事現場で不要となったもの=通称「残コン」)をニッケイ工業事業場内にあけさせていたものであることが判明しています。また、ニッケイ工業は会社経営が厳しく、債務超過の状況であるとも報じ、「ニッケイ工業が砂利を高く買ってもらう代わりに、残コンを受入れていた」との見方もあるとしています。
また、「事業場内にあった残コンには大量の砂利がかぶせられ、周囲から見えないようカムフラージュされていた。汚泥の不法投棄とみられる問題が発覚した5月頃に同社側が覆った可能性がある」という報道もされています。
以上、新聞報道を基に第2の汚泥投棄事件の概要を書いてきましたが、
1 金銭的に困窮し適正処理経費を捻出できない。
2 収入を得るために、無許可で他社の廃棄物を受入れる。
3 発覚を免れるため隠ぺい工作をしている。
このようなニッケイ工業の行為は、まさに不法投棄の代表といえる事件だと考えています。2は、実際には金銭の授受はないかも知れませんが、通常より高く販売した砂利の差額が処分料金との解釈ができますので、ニッケイ工業の無許可処分業と生コン業者の処理委託基準違反も問える事件と考えます。
そこで気になるのが、山梨県の対応です。7月末の知事の記者会見では「調査段階の今、決め打ちで刑事告発するとは言えない。」としながらも「仮に不法投棄であれば厳正なスタンスで臨みたい。」と述べています。生コン汚泥の投棄発覚から半月余が経過した時点でのコメントとは思えない驚きの報道でした。さらに1箇月を経過した現時点でも、告発の動きはありません。刑事訴訟法第239条第2項には「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と規定されています。事件捜査は警察の仕事であり、行政としては細部まで詰める必要はなく、ここまでの立入検査結果から告発に足りる情報は十分に掴んでいると考えます。行政の役割は、告発して終わりではなく、後片付けのための措置命令の発出も早期に検討しなければならないわけで、もっとスピード感を持って業務に当たって欲しいと思います。