2020年05月11日
廃棄物ひとくちコラム
第49回 <不法投棄未遂罪について>
前回のコラムでは、全国の産業廃棄物の不法投棄発生状況についてお伝えしましたが、今回は、廃棄物処理法の中では少し異質の規定である「不法投棄未遂罪」について書いてみたいと思います。
法律第16条には不法投棄を禁止する規定が法制定当時からありますが、実際に廃棄物が地面に落下した後でないと、この「不法投棄罪」は成立しません。ですから、例えば崖の上にダンプカーが停車し、今まさに廃棄物を投棄しようとしている場合でも、荷台から廃棄物が落下した後でなければ法律違反を問うことはできない法規定となっていました。
でも皆さん考えてみてください。このようなケースでは、投棄された廃棄物は崖の上から谷底に落下してしまい、それを拾い上げ片付けることの困難さは容易に想像できると思います。この場合、運搬車両や投棄物等を調査して行為者を特定し、当該者に片づけを命令する(法第19条に基づく「措置命令」の発出:平成30年12月号コラム参照)ことになりますが、原状回復が図られることは稀です。投棄されたままの状況を放置すると環境保全上の支障が生じるおそれがある場合は、管轄自治体が税金を投入して「行政代執行」により原状回復を行わなければなりません。
このようなことを背景に、平成15年に法律改正が行われ、「不法投棄未遂罪」が新設されました。当時の法改正の運用通知には次のような記載がされています。
『近年、廃棄物の不法投棄を行おうとする者が、その実行に着手した段階で、警察の監視に気付くなどにより実行行為の完遂に至らず、処罰を免れるケースが見られるところ、これらの者が再び不法投棄を行う蓋然性が極めて高いため、その再発を防止するとともに、環境保全の観点からは、既遂に達する前に取り締まる必要があることから、未遂行為を罰する旨の規定を新設した。』
と記しています。真の目的である投棄された後の原状回復手続きの煩雑さや行政代執行による税金投入など行政側の都合を一切書かないで、法改正理由としてしまえるのは、さすが官僚です。
また、通知の中でその運用については、
『廃棄物を不法投棄場所に定着させるべく、身体、道具又は機械等を用いて、廃棄物を投げる、置く、埋める又は落とす等の行為に着手した時点で、不法投棄の実行の着手があったものとして不法投棄未遂罪に該当すること。具体的な行為類型としては、ダンプカーの荷台操作等の一連の投棄行為を始めた直後に、警察官等に制止された場合、監視に気付いて行為を打ち切った場合、ダンプカーが故障し廃棄物を投棄できなかった場合等が考えられる。』
としています。罰則については、「不法投棄罪」と同じで、個人に対しては5年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金又はその併科、法人に対しては3億円以下の罰金とこの法律で定める最も重い刑罰が規定されています。
なお、未遂罪は不法焼却(野焼き)については不法投棄と同時期に、不法輸出については、平成18年に追加されており、現在この3つの違法行為について未遂罪が規定されています。