2017年09月04日
廃棄物ひとくちコラム
第20回 「岐阜県内における産廃流出事件速報」
前2回は、水銀含有製品産業廃棄物に係る法改正について緊急連載をしました。今回からは法律規定の変遷の話題に戻る予定で原稿も用意済みでしたが、産業廃棄物の違法処理を原因とする大きな事件が発生しましたので、その概要と事件から得られる教訓について速報させていただきます。
まず、新聞報道等から判明している事件の概要を整理してみます。
1.事件の発生は先月18日の夜でした。大雨により山の斜面が崩壊し、隣接する中央高速道路の本線上に土砂が流出。これに乗り上げた車両の搭乗者がけがを負ったほか、長時間にわたり通行止めとなり帰省客で混雑する高速道路が大混乱しました。この崩壊した土砂の中に、白色の物やフレコンバッグが大量に混入していたことから、産業廃棄物の不正処理が明るみに出ました。
2.原因者は、名称:丸釜釜戸陶料株式会社、代表取締役:水野 辰英
住所:岐阜県瑞浪市釜戸町3115番地の2
創業:昭和25年 資本金:1,100万円 従業員数:66名
3.流出物は、製品製造の過程で発生する材料(珪石)の残さで、利用価値のない不要物でした。監督権者である岐阜県は、産業廃棄物の種類を公表していませんが、報道写真等から「汚泥」と推定されます。
4.原因者は、以前から当該産業廃棄物を、月に3トン程度フレコンバッグに詰め、自社敷地内にある「採石場跡地」に捨てていました。代表者をはじめ会社関係者は、違法性を承知で行為を繰り返していましたが、2年程前から許可業者への委託処理に切り替えています。
5.捨てていた場所は、19m×30mで高さ5m程度でした。また、原因者はこの場所について、廃棄物処理法に基づく最終処分場の設置許可を取得していませんでした。
6.汚泥は、下流市街地にも流出し、乾燥すると発癌性物質が飛散するおそれがあることから、関係住民には、防塵マスク等の配布がされています。
また、新聞報道されていますが、事実が不明な点もあります。
1.捨てていた時期が、10年前からという報道もありますし、40年も前からというものもあります。
2.捨てていた採石場跡地の全体の広さも明らかになっていません。前出の19m×30mは崩壊した部分の面積なのか、行為をしていた場所全体の面積なのかは不明です。
次に、以上の報道等から原因者が問われる廃棄物処理法の違反条項を考えてみます。
1.法第16条違反:不法投棄
発生した産業廃棄物を、捨てた行為は、不法投棄の疑いがあります。24日に警察の家宅捜査が行われていますが、おそらくこの罪状で捜査令状を請求していると考えます。確かに、報道からは安易に捨てていると見受けますので、それを問われて当然ですが、自社敷地内であることと、採石場跡地という一定の場所で行為が行われていたことを考えたとき、適用要件である「みだりに捨てた」と断定できるかが今後の焦点と言えるでしょう。
2.法第15条違反:最終処分場の無許可設置
現在の法律は、最終処分場を設置するときは、面積を問わず全てのものが許可対象となっています。つまり、自社敷地内に小さな穴を掘って、産業廃棄物を捨てたら、委託処分の意思がないとして埋立行為と見なされ、最終処分場の無許可設置が問われます。しかし、法律がこのように整備されたのは平成4年からで、それまでは汚泥を埋め立てることができる「管理型処分場」は、1,000㎡未満のものは許可不要となっていました。従って、今回の事件でポイントなるのは、いつから埋めていたかと埋立場所の総面積になります。法律改正より前から使用していた最終処分場には経過措置が適用されますので、40年前から使用していた1,000㎡未満の処分場となれば、これを問えるかは疑問です。
これだけ大規模に報道された事件ですので、今後行政と警察は必死で調査・捜査を継続していくことになりますので、続報はこの紙面でお伝えしたいと思います。最後に、排出事業者としてこの事件から得られる教訓を考えてみます。
1.コンプライアンスの遵守
法律を守る、決まりを守ることの重要性を再認識する必要があります。客先からのクレーム処理には各社敏感になっていますが、おおもとのこうした事柄が放置されていたということは、全くの片手落ちです。今後発生する原状回復や損害賠償に掛かる経費は莫大で会社の存続が危ぶまれる状況が考えられます。また、それを免れたとしても今回の事件で失った社会的信用を取り戻すことは容易ではありません。
2.分らないことは相談
違法性は、認識していたという報道に接し、どうして早い時期に担当窓口に相談しなかったかという疑問があります。違法行為がバレるのが怖い、今後目を付けられるのではないかと不安だという声は聞いたことがありますが、真摯に相談すれば、行政窓口は好意的に話を聞いてくれ、助言をしてくれますよ。傷口は小さいうちに、物事は根拠を持ってを実現するために、是非心掛けてください。